2012年5月29日火曜日

死は前よりしも来らず、かねてうしろに迫れり。





死は前よりしも来らず、かねてうしろに迫れり。
人みな死あることを知りて、
待つことしかも急ならざるに、覚えずして来る。
沖の干潟はるかなれども、磯より潮の満つるがごとし


死は未来から向かって来るだけでなく、過去からも追いかけてくる。
人は誰でも、死の来ることを知っているが、そんなに急にやってくるとは思ってもいない。
だが、死は予期せぬ時、突如として来る。
遙か遠くまで続く浅瀬が、潮で満ちてしまい、消えて磯になるのと似ている。



吉田兼好 : 徒然草 第百五十五段
世に従はん人は、先づ、機嫌を知るべし。序悪しき事は、人の耳にも逆ひ、心にも違ひて、その事成らず。さやうの折節を心得べきなり。但し、病を受け、子生み、死ぬる事のみ、機嫌をはからず、序悪しとて止む事なし。生・住・異・滅の移り変る、実の大事は、猛き河の漲り流るゝが如し。暫しも滞らず、直ちに行ひゆくものなり。されば、真俗につけて、必ず果し遂げんと思はん事は、機嫌を言ふべからず。とかくのもよひなく、足を踏み止むまじきなり。

春暮れて後、夏になり、夏果てて、秋の来るにはあらず。春はやがて夏の気を催し、夏より既に秋は通ひ、秋は即ち寒くなり、十月は小春の天気、草も青くなり、梅も蕾みぬ。木の葉の落つるも、先づ落ちて芽ぐむにはあらず、下より萌しつはるに堪へずして落つるなり。迎ふる気、下に設けたる故に、待ちとる序甚だ速し。生・老・病・死の移り来る事、また、これに過ぎたり。四季は、なほ、定まれる序あり。死期は序を待たず。死は、前よりしも来らず。かねて後に迫れり。人皆死ある事を知りて、待つことしかも急ならざるに、覚えずして来る。沖の干潟遥かなれども、磯より潮の満つるが如し。






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